腸管出血性大腸菌

 

平和なおじゃま虫のはずが、、、

大腸菌と聞いて顔をしかめる方も多いでしょう。良いイメージはないかもしれません。「食品から大腸菌が検出されたので、回収された」というよくあるニュースからくるイメージと、O157による食中毒が大腸菌を悪役にしています。しかし、大腸菌は皆さんの大腸の中に必ずいますし、特に悪いことをしていません。お腹の中のおじゃま虫、と言ったところでしょうか。

しかし、例外的に病原性のある大腸菌がいます。赤痢菌やコレラ菌とほとんど同じ毒素をつくったりします。その中に腸管出血性大腸菌というグループがあって、その代表選手(感染の80%を占める)がO157です。

O157は出血性の下痢を引き起こすだけでなく、腸の中でつくるベロ毒素という毒素が腎臓に障害を与え、幼児、お年寄りでは死亡することもあります。

どこにいるのか 

牛など偶蹄類の腸管。日本の牛の0.5〜1.5%に常在しています(40%というデータもあります)。O157を持っていても、牛は無症状です。

原因食 

牛を屠殺、解体する過程で牛の糞便が牛肉に付着します(これを完璧に防止することは、とても難しい)。これが最大の原因です。また、感染した人も糞便に大量のO157を排出しますから、人から人への直接的な伝播や、感染者の調理による感染もあります。

症状 

原因食を食べて4〜8日で、激しい腹痛と水様の下痢が起きます。悪化すると、ほとんど便を含まない血便となります。溶血性尿毒症症候群になると、幼児やお年寄りでは死亡することもあります。

その一方で、成人の5〜50%は無症状のまま保菌しています。お父さんが焼き肉屋で感染して、軽い下痢。一緒にお風呂に入ったお子さんが感染して重傷。こんなシナリオをが疑われる事例もあります。

特徴 

いくつかの特徴によって、O157は少数の菌の感染で、発症に至ります。相当の注意が必要です。「発症病原体数」のページをご覧下さい。

予防法

幸いなことに熱に弱いので、通常の調理で感染は防止できます。ステーキ用の一枚肉は安全ですが、サイコロステーキはきちんと焼いてください(ハンバーグのページ、欄外)。

焼き肉、すき焼きでも要注意です。きちんと火を通しても、生肉を取る箸と火の通った肉を口に運ぶ箸を分けないと「O157さん、いらっしゃい」と言っているようなものです。一滴の肉汁がサラダにはねても危険です。アメリカではサラダによるO157感染例が少なくありません。キッチンでの汚染によると思われます。日本では少ないの?と聞かれそうです。残念ながら日本では調べられていないので、データがありません。

大腸菌は無害なのに、、、?
大腸菌は、O157のような例外を除いて無害です。ではなぜ、大腸菌が食品や飲み物から検出されるとニュースになるのでしょうか? 大腸菌は文字通り大腸、哺乳類の大腸が生息場所で、それ以外の場所ではほとんど見つかりません。すなわち、大腸菌が見つかったということは、そこが大腸の中身、ウンコに汚染されていることを示しているのです。
ではもう少し突っ込んで、なぜウンコはいけないのでしょうか? 臭いから? 赤痢、コレラ、腸チフスなどなど、患者の糞便に排泄されて、それが誰かの口にはいると病気を引き起こす病原体は数多くあります。 日本に限らず古来から、便所をつくるときには家の端に、場合によっては別棟につくってきました。これは、これは糞便を遠ざけ、口に入る可能性を低くするための智恵だったのだと思います。
確かに、臭いことも人が糞便を嫌う理由でしょう。しかし、これは話が逆ではないかと私は想像しています。臭いと感じなかった人、いい匂いのウンコをする一族(そんな一族がいたかどうかは知りませんが、可能性はあると思います)は糞便を遠ざけることをしなかった結果、感染症で死に絶えたのではないでしょうか。
本来なら、本当に病気起こす病原体がいるかどうかを検査すれば、「危ない」かどうかを直接知ることができます。しかし、その様な菌で食品が汚染されていることは、そう多くはありません。 大腸菌は糞便にたくさん含まれ、検出も容易です。 無害であっても、大腸菌に汚染されていれば、いつかきっと恐ろしい病原体が入ってしまう、、そんな可能性があるのです。