研究テーマ

私たちの研究室では、以下の4つが主な研究テーマです。

  1. 最悪、最強の食中毒菌ボツリヌス菌の制御

  2. ノロウイルスの消毒法の開発

  3. 超高圧による食中毒の制御

  4. 食品安全の基礎HACCPの普及

 
ボツリヌス菌による食中毒は、日本では数年に1件程度しか発生していません。しかし発症した場合の致死率は20%にも及びます。これは強力な神経毒をつくるためで、この毒素が1グラムあれば、1000万人を殺せると言われています。

ボツリヌス菌が怖いのはこの毒素だけでなく、なかなか殺せないことにもあります。普通の微生物は煮たり焼いたりすれば殺すことができます。しかしボツリヌス菌は胞子(上の写真の白く見えるやつです)と呼ばれる種(タネ)のようなものをつくって、高温や乾燥に耐えます。これを殺すためにナポレオンが命じて作らせたのが缶詰です。言ってみれば、ボツリヌスは缶詰の生みの親です。

なかなか殺せないボツリヌス菌ですが、超高圧により胞子を発芽させて殺す方法(発芽すると普通の細菌と当程度の加熱で殺せます)、胞子の熱殺菌を促進するコメに含まれる成分などを中心に研究をしています。

 
ノロウイルスは最も多くの患者を出す食中毒です。これは日本だけでなく、アメリカやヨーロッパでも同じです。多くの患者を出す理由としては、次の2点があげられます。
  1. ・患者が1回排便すると、10億人分の感染量のウイルスが排出される

  2. ・消毒、特に手についた場合の消毒が容易ではない

というわけで、感染している人がトイレに行って手をよく洗わないで調理をすると、多数の患者を出す可能性があります。これを防止するには、手洗いとそれに続く消毒が重要ですが、効果のある消毒剤は皮膚には使えないものばかりです。そのため消毒効果効果のある薬品を組み合わせることで効果を高める工夫をしています。以前は、ノロウイルスの消毒には数100ppmの塩素が必要であると言われていました。しかし私たちの研究でそれは誤解であり、消毒前にきちんと洗浄すれば、1ppm程度で十分であることが明らかになりました。

 
海底1万メートルの水圧に相当する圧力、もしくはその10倍程度までの圧力をかけると、蛋白質や細胞膜が破壊され細菌が死んでいきます。加熱は肉などの食品の風味を損ねるので、 食品を加熱しないで殺菌できると期待されました。 しかし圧力への感受性は菌の種類で大きく異なり、特にボツリヌス菌のような胞子をつくる菌の殺菌は難しいことが分かりました。

しかし胞子に圧力をかけると、胞子が発芽することがあります。圧力だけで発芽するもの、加温が必要なもの、栄養成分が必要ものなど様々ですが、上手く組み合わせると、ほとんどの胞子を発芽させることができます。発芽してしまえば、80℃程度の加熱で殺せます。この技術を使うことで、美味しくて安全な食品の加工法を模索しています。

 
HACCPは、Hazard Analysis and Critical Control Point (危害要因分析と必須管理点)の頭文字をとったもので、ハサップまたはハセップと発音します。これは安全な食品をつくる手法で、宇宙食の安全を高度に確保するために、NASAが食品企業、軍と共同で開発した手法です。

食中毒が起こるのは、食中毒菌や有害な化学物質などの安全性を損ねる因子(危害要因)が食品に入るからです。HACCPでは食品の製造工程をじっくり分析し、どの工程でどのような危害要因が入ってくるかを分析(危害要因分析)します。そしてその危険性を取り除くのに最もよいステップ(必須管理点)を決めて、そこで管理します。これは特別なことではなく、例をあげるならば、肉をしっかり焼くことで牛肉についているO157を殺すようなものです。

この手法をきちんと行うと食品の安全性は飛躍的に高まるので、多くの国が義務化しています。しかしそれを食品企業が導入するには、時間もかかり、人材も必要です。私たちはHACCPの導入の支援、人材の育成、導入しやすい手法の開発などを行っています。