ウイルスと細菌

 

ウイルスというのは、実に興味深い存在です。そして、説明しづらい。そもそも、ウイルスは「生き物」なのか? 私は生き物に入れたくありません。これは私の「好み」で、生物とする人もいます。

生き物の基本は、「子供を作る」と「食べる」です。食べる目的はふたつあります。ひとつは、自分の体を大きくしたり、子供を作るための材料を外から取り入れること。もうひとつは、食べた物質が持っているエネルギーを使うことです。細菌(バクテリア)は、栄養をやっておけば、それを食べ(細胞内に取り込み)、その一部を自分のからだの一部にします。体を作るのに必要なエネルギー得るために、栄養素を代謝します(植物や一部の細菌などは光のエネルギーを使います)。そういった作業のために使う酵素などの道具を、体内に持ち、体が大きくなって2倍になったら、分裂して子供を作ります(分裂したどっちが親でどっちが子供かという質問は、意味がありません)。

さて、ウイルスはというと、、、 自分を増やす設計図(遺伝子)を持っています。それが壊れないように殻に包んでいます。 ウイルスは絶対的な寄生体で、ひとりでは生きていけません。宿主の細胞の中に入って、初めて増殖できます。単に栄養をかすめ取るのではなく、ウイルス自身を増すために、宿主細胞が分裂・増殖やエネルギー獲得のために用意している酵素などの道具だてを使います。そのため、ごく少数の宿主に借りることができない遺伝子しか持っていません(ちなみに、ヒトは3万の遺伝子を持ち、大腸菌は4000,エイズウイルスはたったの9個です)。言ってみれば、設計図だけを持ってそっと工場に忍び込み、生産ラインを自分をつくるために使うようなものです。 こういったずるがしこさがウイルスの身上です。子供を作るんだけれど人任せ。食べるのも人任せ。生き物の資格の半分しか持っていないことになります。

このような巧妙なやり方のせいもあって、相手にする宿主が限られます。バクテリアは基本的に栄養などの条件が揃えば増殖しますが、ウイルスは特定の生き物にしか感染できないのが、一般的です。ノロウイルスが人間にしか感染しないのも、このような理由からです。

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PS: はじめに「ウイルスを生き物に入れたくない」と書きました。しかしここ数年、破格のウイルスが相次いで見つかりました。ミミウイルス、ママウイルス、パンドラウイルスと可愛らしい名前が付けられています。そいつらの特徴は、ウイルスらしからぬ性格です。細菌なみに大きく(最初は細菌と間違えられた)、数100から1000を超える遺伝子を含み(遺伝子数がいちばん少ない細菌を超えています)、核酸の複製や転写さらには翻訳の遺伝子まで少数ながら持っています。欠けてはいるけれど、核酸の複製から翻訳までの道具を持っているいうことが重要で、これは他人の助けを借りずに「子供を作れる」可能性を示すものかもしれません。数十年来の私の「好み」が揺らいでいます。