新潟薬科大学 薬学部
薬品物理化学研究室

研究テーマ

薬学は,広い意味では化学物質と生体の相互作用です.相互作用の結果が役立つようであれば,その化学物質は薬であり,逆に負の側面をもつならば,副作用であり毒であるわけです.したがって,「化学物質ー生体」をとりまく,理系文系問わず,あらゆる分野が薬学といってもいいのではないでしょうか.

その中で,私たちの研究は,化学物質の分子の性質にフォーカスした基礎的な研究に位置付けられ,主に様々な現象を分子レベルで理解することを目指しています.手法は問いませんが,実験的にはレーザー分光学,光化学反応,赤外分光,MALDI法,質量分析法など,理論的なアプローチとしては,Gaussianによる計算化学を用いています.物理化学をベースとして,分野を問わず興味のあるテーマに取り組んでいます.具体的な研究領域は次の通りです.

フェムト秒レーザーによる有機分子・分子錯体の光反応
薬の多くは有機化合物です.有機分子にフェムト秒レーザーを照射すると,極めて短い時間に分子中の電子に高いエネルギーを与えることができます.そのエネルギーは,イオン化や化学結合の切断,原子の組替えなどを引き起こします.私たちのグループでは,フェムト秒(10-15秒)レーザーによる有機分子の新規反応を見つけ,その機構を解明することを目的として研究を進めています.質量分析装置と組み合わせて,とくにレーザーにより2つの電子が取り去られた二価分子イオンにおける振る舞いに着目しています.分子式が同じである構造異性体や位置異性体などの分離にも応用しています.

MALDI法におけるイオン生成過程の解明
マトリックス支援レーザー脱離イオン化法(MALDI法)は,質量数の大きな生体分子を非破壊的に気化・イオン化する方法です.質量分析法と組み合わせて,微量な生体分子の定性分析に不可欠な方法です.一方で,科学的観点からは,複雑な物理過程・化学過程が関わるために,試料のイオンの生成機構の理解は不十分です.私たちは,そこを明らかにするためにMALDI装置開発や反応モデル構築などを行っています.最近の成果として,MALDI過程により気化された蒸発柱にフェムト秒レーザーや真空紫外レーザーを照射し,その化学成分や時空間分布を調べ,MALDI機構の定量的解釈へ近づく研究を進めています.

量子化学計算による分子構造・反応経路の探査
光照射によってエネルギーを得た有機分子は,イオン化して異なる分子構造に変化したり,様々な中間体を経て解離したりします.私たちは,その反応機構を知ることを目標としていますが,実験からだけでは解離生成物の特定しかできません.そこで,量子化学計算による反応経路の探査を行い,反応機構解明を目指しています.