研究内容

上記のように研究テーマは2つある。一つは“固相反応の研究”で比較的基礎研究的色彩が強い新しい化学反応の開発を目的とした研究である。もう一つは“自然界中の新規有用物質の探索”であり、一般的に天然物化学といわれる分野である。植物や動物中に存在している医薬品やサプリメントの元となるような新規の有用物質を探索し、抽出精製して単一の物質として取り出し、構造決定して利用していこうという研究である。つまり、“新しい反応を見つけよう”および“新しい物質を見つけよう”という研究を行っている。

固相反応の研究

アルキルコバロキシム錯体の固相反応の研究

一般的な化学反応は溶液状態で行われる。例えば、上の図のように、紫の試薬と黄色い試薬を反応させようとするとき、まず、紫の試薬を溶媒にとかし紫の溶液としてそこに黄色い試薬を溶かした溶液を加えて反応させる。その後その溶液の中より目的物を取り出すという経過をたどる。このとき、溶媒は溶かすためだけに使われ反応終了後廃棄される。昔はこれが公害の一因であった。いまではそういうことはなくなったが、大きな無駄であることには違いない。

そこで、溶媒を使わないで紫の試薬と黄色い試薬を直接反応させることができれば、廃棄物を出さない化学反応ができる。このような固体を直接反応させる反応を固相反応(または結晶相反応)という。この固相反応では、溶液中の反応では起こらないような反応も起こることもあり反応論的にも非常に興味深い。

実際に取り扱っているのは化学構造がビタミンB12に似ているコバロキシム錯体という化合物であり、この結晶に光を当てると結晶の中で化学反応が起こり他の物質に変換される。さらに、このコバロキシム錯体の化学構造を工夫すると、空気中の酸素と反応して、酸素を取り込んだ生成物ができてくることを見いだしてきた。現在、このような固相反応をさらに発展させ、溶剤を使わなくても自由に医薬品などが化学合成ができるようになることを目標に研究を推進している。

自然界からの有用物質の単離

植物及び動物中の新規有用成分の探索

自然界にはまだまだ知られていない有用な物質が埋もれている。これらを探すことは有用である。細菌を殺す“抗菌活性”と生体内に発生するか酸化物など消去する“抗酸化活性”を指標に新規有用物質を探索している。昨年までは、ダチョウの脂に関する研究なども行っていた。現在は、比較的どこにでもある植物であるが、その中でも余り利用されていない部位について研究しており、順調にいけば生物資源の有効活用につながると考えている。

研究業績

研究発表

Solid state-specific and chiral lattice-controlled asymmetric photoisomerization of 3-substituted propyl cobalt complexes, and direct observation of the intermediate complex, J.Organometallic Chem., 691, (10), 2319-2326(2006).

Solid state and crystalline state-specific (ω→α) photoisomerization-linked dioxygenation reaction of (ω-substituted alkyl)cobalt complexes, Tetrahedron Lett., 53, 6552-6556(2012).

アルキルコバロキシム錯体の固相気相酸素挿入反応、第68回有機合成化学協会関東支部シンポジウム(新潟シンポジウム)、要旨集p.82-83(新潟、2014年11月).

ジ(4-フルオロフェニル)グリオキシムを平面配位子とするアルキルコバロキシム錯体の固相気相酸素挿入反応、日本化学会第95春季年会(2015)、要旨集2PB-117(千葉、2015年3月).