カンピロバクター

 

新鮮なほど危なくて、後遺症もきつい


私は、HACCPトレーニングセンターという団体の理事長も務めています。HACCPは食中毒を予防する最良の方法といわれるもので、この団体は正しいHACCPの普及に努めています。

トレーニングセンターの定期的なセミナーのあと、みんな揃って飲み屋に行きました。食中毒防止の専門家集団の飲み会です。オードブルの盛り合わせを人数分頼んだところ、何種類もの料理がならび、その中に鶏刺しがありました。ササミを切ったそのままです。2時間近く飲んで、食べて、飲み屋さんを出るときにテーブルを見れば、申し合わせたように鶏刺しだけが残っていました。下げられた皿を見たのか、板前さんが飛んできました。「 何か変だったんでしょうか? 肉は新鮮なんですが、、」。私たちの答えは「新鮮だから危ない」。心配はカンピロバクターでした。

この菌は鶏の腸管にいて、肉にするときにその表面を汚染します。この菌は生きていくのに薄い酸素が必要で、最適な濃度は5%程度。空気中の20%では死んでしまいます。しかし、多少空気にさらしても、湯通しして表面を殺菌しても、肉の内部に潜り込む得意技を持っているので安心できません。だから、鶏刺しは新鮮なほどカンピロバクターが生きているのです。 もちろん古くなればサルモネラなどが増殖し、こちらの危険性が増えます。

サルモネラの発症菌数は、1万から1億といったところでしょうか。それに対して、カンピロバクターは100〜1000個と言われています。カンピロバクターは汚染だけで発症数に達し、サルモネラは、食品中で増殖するの必要があります。

板前さんの勉強不足は責められるべきですが、この細菌が食中毒菌として認識されるようになったのは、この10年くらいです。そして今では、ノロウイルスと1,2を争う食中毒の原因です。

どこにいるか

鶏、家畜の腸管。特に鶏の保菌率は高く、食鳥処理場での調査では、運ばれて来た鶏(生鳥)のカンピロバクターの汚染率は30%から100%と高率です。


原因食品

鶏肉。とくに鶏刺し、トリワサなどの生肉。生の鶏肉を扱ったキッチンでの交差汚染(だから私は刻みキャベツを残しました。このページの「無駄話」)。 99~05年の食品検査では、鶏肉 の32%がカンピロバクターで汚染されていました。牛のレバ刺し(これは大腸菌O157の汚染度が高くて、もっと怖い!!!)、という例もあります。

予防法

鶏刺しを食べない。鶏肉はきちんと加熱。交差汚染を避ける。

症状

2〜7日と比較的長い潜伏期のあとで、発熱、倦怠感、 筋肉痛等に次いで吐き気、腹痛、1日10回以上に及ぶ下痢が1〜3日続きます。

怖いのはその後です。食中毒発症後約2週間で、ギランバレー症候群という運動麻痺、呼吸麻痺を伴う合併症が現れることがあります。

ギランバレー症候群

その原因には、他の細菌やウイルスも疑われていますが、最も重要なのはカンピロバクターです。ギランバレー患者でその発症前にカンピロバクターの感染が疑われたのは アメリカの統計では10-30%、日本では30~40%。

症状は数週間続き、ほとんどの場合、完治します。しかし15~20%は重症化し、呼吸困難などで死亡する例も2~3%ある侮れない病気です。

無駄ばなし
トンカツ屋に行ったときのことです。カウンターに座って、チキンカツを頼みました。
おやじさんは私の目の前で、モモ肉をまな板にのせて、手慣れた手つきでさばきはじめました。そのあと、まな板をふきんでさっと拭いたかと思うと、すぐさまキャベツを刻みました。唖然とする私に、「どうだ、速いだろう」と自慢顔でした。でも、私が驚いたのは、キャベツを切る速さじゃありません。
私がキャベツを残したこと、その後トンカツ屋に行く回数がめっきり減ったこと(行っても、カツ丼ばかり頼むようになりました)は、皆さんのご想像の通りです。
私がギランバレー症候群になったときの賠償金はいくらくらいだろう、などと考えてしまいました。