なぜ HACCP は難しいのか

 

なぜHACCPは難しい(と思われている)のか

実はこの文章を書いたのは、2005年の頃です。その頃は、食品衛生法による総合衛生管理製造過程がHACCPだと誤解されていました。しかしこれは日本独自のもので、世界的な標準からは、HACCPとは呼べない大げさなものでした。そのおかげで「HACCPは難しい」と誤解されていました。しかし2014年に厚労省は、世界標準のHACCP(国連のコーデックス委員会のテキストに沿ったもの)を義務化すると発表しました。なので、以下の文章は、当時の愚痴ですので、読み飛ばしていただいて結構です。

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HACCPについては多くの本が出版されています。HACCPは1冊の本に収まりきらない内容を持っています。これだけが理由ではありませんが、 日本では「HACCPは複雑なもの」という認識があります。 しかしHACCPは論理的で、その方法は科学的なので、きちんとした解説があれば「すんなりと」頭に入ります。また、アメリカではHACCPを導入してから食中毒が20%減少したという調査結果があります。食中毒が減ったことの経済効果は、HACCPにかかった費用を上回ったと結論されています。これがアメリカ政府がHACCPの義務化を推進している理由です。HACCPは「実が上がる」のものなのです。

HACCPが誤解されているのは、次のような理由によるのでは、、、と想像します。

HACCPの危害要因分析には、微生物の知識などが少なからず必要である

「日本版HACCP」と呼ばれている総合衛生管理製造過程が複雑である

一番目の理由は、ある程度納得します。しかし、難しいと思われているより大きな理由は、「総合衛生管理製造過程」(通称、マル総)にあったと思っています。マル総はHACCPの考え方、手法を取り入れて構築されています。しかしマル総にはHACCPの持っている「見切りの良さ」がなく、「完璧」を目指しているように見えます。HACCPでは製造工程を分析して、「ここで管理は欠かせない」と決めた数カ所に限って厳密な管理を行い、他は緩い管理で済ませます。しかしマル総では、 緩い管理で十分なところにまで、工程内のすべてのステップに厳密さを求め、結果として山のような仕事が発生します。法令や規制には、「必ず守らせる」ものと「達成目標」とがありますが、マルソウではHACCPを「目標」であり、「達成」に向けて努力すればいいのだ、と誤解したのかもしれません。


余談

私たちの学部では「正しいHACCP」を学生に教えています。しかし、食品企業の方々は「マル総=HACCP」と思っておられる方が多いようです。マル総とHACCPとは、決して「イコール」ではありません。もう10年も前のことですが、就職試験の面接で実際にあった話です。当時の食品業界の誤解が見えてきます。

  1. 面接官「食品安全学って何を習ったの?」

  2. うちの学生「HACCPです」

  3. 「HACCPってなに?」

  4. 「食品を安全につくるための最も優れた方法です」そのあと学生は「習ったこと」話して、、、

  5. 「あんなもん、金ばっかりかかって役に立たないよ」

これだけが理由とは言いませんが、学生は「不採用」でした。でも、嘘は教えられませんから、本物のHACCPを教えたあとで、「HACCPを誤解している人もいるからね 、、、、」と要らぬ講釈をしています。