なぜいま、HACCP なのか
なぜいま、HACCP なのか
HACCPは世界標準
HACCPが普及しない理由などを書いてきましたが、2010年あたりから、HACCPを導入したいという食品企業が増えてきました。いくつか理由が考えられますが、おもなところは、以下のようなものだと想像しています。
・取引先が要求するようになった。
・輸出先の国がHACCPを要求している。
・厚労省がコーデックス委員会が推奨するHACCPを基準に取り込み、「2020年には義務化」と言い始めた
1番目と2番めは同じようなものかもしれません。HACCPという投資を必要とすることを理由なく(利益が見込めないのに)導入する企業はまれでしょう。「取引先が求めるから」というのが、私が近ごろよく聞く理由です。では、なぜ取引先は要求するのか。それはHACCPが食品安全の「見える化」をしてくれるからです。HACCPが導入され、それが運用されていることが保証されていれば、一定水準の食品安全が確保されているからです。
2番の理由は、日本でHACCPが普及しなかった理由とも重なると思っています。食品輸出国は貿易相手国の法律や規制に合わせる必要があります。ヨーロッパもアメリカも全食品のHACCP義務化を進めています。そこに輸出するには、HACCPによる管理で製品をつくる必要があります。特にアメリカの食品安全強化法(Food Safety Modernization Act, FSMA)では、HACCPをもう一歩進めた予防コントロール(Preventive Controls)を義務化しました。そして、アメリカ国外の工場であってもFDA(米国食品医薬品局)の立ち入り査察を要求しています。
ほかにもHACCPを品目や企業規模に限定して義務化している国は多く、いわゆる先進国でまったく義務化がないのは日本だけになってしまいました。日本は「食品輸入大国」であったため、アメリカに食品を売りた中南米や東南アジアの国のように、HACCPを導入する必要が乏しかったのです。ここのところのHACCP熱は、TPPとオリンピックが日本のお尻に火をつけたのかもせれません(TPPはその後のアメリカの脱退で勢いが削がれましたが、、)。 アメリカが食品安全強化法で食品の輸入にHACCPを要求するようになったのは、農業国であるアメリカでも輸入食品が増え、それによる食中毒が頻発しているというのが大きな理由です。 HACCPは食品安全の世界標準なのです。厚労省もHACCPを義務化しないと世界に遅れをとる考えて、義務化まで考え始めたのだと私は思っています。
以前は食品事業者の方にHACCPについて話したあと、「万が一の時の保険だと思って始めませんか」と勧めていました。しかし今は「HACCPは取引先を増やす資産です」と言っています。食品企業は、Farm to Table(「農場から食卓まで」。たとえば、牛の飼育、屠殺、精肉、レトルトハンバーグへの加工、流通、販売まで)の一部を担っているだけです。精肉業者がいい加減なことをしたら、 加工業者が安全性に気をつけても努力は水の泡です。なので、「きちんとした業者から買いたい」となるのです。実際、HACCPは納入業者の適切な選定を求めます(FSMAではより厳格です)。最近の消費者の安全志向に敏感な大手の小売業が、納入業者に、そしてその納入業者がそのまた納入業者に、と芋づる式にHACCP導入への圧力がかかっているのを感じています。HACCPは会社の収益に貢献するのです。
2018/10/7