HACCPは品質を扱わない

 
 

HACCPは食品安全に特化している

HACCPの管理手法が優れたものであるなら、品質も管理できるだろう。そう考えるのは必然であり、きっとだ正しいでしょう。しかしHACCPは「禁欲的に」品質を扱いません。その理由は以下のとおりです。

・品質は製品ごと製造者ごとに同一ではなく、複雑である。

  1. 食品の安全を守るためには、O157のような食中毒菌が含まれていたはいけない。これは食品の値段にかかわらず一律です。しかし品質の管理は一定にはできません。同じ財布でもブランド物と100円ショップの物とでは、品質に雲泥の違いがあるように、食品の品質も一定でではありません。また、品質管理の管理点も多岐にわたり、それぞれに点で何をもって合格とするのかは、製品ごとに大きな差があります。 一律の合格基準がつくれません。しかし食品安全では、「 O157は全滅させなければならない」、「そのためには 75℃の加熱が必要」、と単純です。

・品質管理をHACCPに組み込むと、安全性への焦点がぼける。

  1. 実際の食品工場で製造ラインに立っている人は、食品安全も品質管理も同時に監視していています。しかし頭のなかでは、この2つを分けて考えるべきです。安全性のほうがはるかに重要で、複雑になりがちな品質管理と同時に行うことによって、安全性への焦点がボケることを恐れるのです。製品の品質は企業にとって重要ですが、別のプログラムで行ってください。

・食品安全のアピールに有利

  1. HACCPの強みは食品安全の「見える化」です。世界中の企業がほぼ同じ手法でHACCPを行っているので、他の会社のHACCPでも、やっている内容を審査したり、記録を確認することが容易です。独自の手法を用いていては、取引先に安全性を主張できません。そのためには世界共通の言語であるHACCPを採用した方が有利で、取引先も増えるはずです。

かつて日本がHACCP導入時に犯した間違いのひとつは、品質まで取り込んでしまったことです。一般にHACCPでは、ハザード(食品を安全でなくする要因)を生物的、化学的、物理的の3つに分けています。しかし当時の解説本には、もうひとつ「品質」を低下させるハザードまでつくってしまったものがたくさんありました。そして管理が複雑になり、「HACCPは手間、ヒマ、金がかかって、実効の上がらないもの」という悪評(もちろん誤解ですが、)にまみれました。

ただしHACCPを取り入れて、かつ次の段階で品質まで取り扱うSQF(Safe Quality Food)のような認証制度もあります。大雑把に言えば、SQFでは第1段階では一般衛生管理まで、第2段階でHACCP、それが達成できたら、最終段階で品質まで管理を広げます。品質は安全が確保できてからの話です。