HACCPは予防的な手段

 
 

工程を管理して食中毒を予防する

完成品での安全確認の限界を知ったNASAは、製造工程から管理をきちんとすることが必要という考えにたどり着きました。 すなわち、食中毒の原因が食品に入り込むことを予防することで、食中毒を防ぐのです。

その第一段階として、原材料の購入、保管、下処理、調理、包装、保存、最終的に食べる段階まで(食品工場では普通は出荷まで)の 製造工程を列挙します。列挙した工程をひとつひとつ検討して、どの工程でどの様な「危害を起こす要因 (ハザード;Hazard、危害要因)」 が入り込んだり、増殖したり(食品の温度管理を間違えると、ある条件では細菌はすごいスピードで増える)するのかを分析(危害要因分析:Hazard Analysis)します。「失敗の芽」を目を皿のようにして見つけ出し、列挙するのです。

第二段階では、それぞれのハザードを最も効率よく管理できる工程、「ここの管理が甘いと危ない」という工程(必須管理点:Critical Control Point)を見定めます。そして、その工程をどのように管理すべきかを決めて(科学的な理由付けが求められる)、食中毒を未然に防ぐのです。HACCPの手法をごく簡単に説明すれば、このようなものです。

危害要因を分析し、必須管理点で対処

「失敗の芽」には、例えば次のようなものがあります。

  1. 1.高濃度に残留する農薬

  2. 2.原材料の肉を汚染するサルモネラ、大腸菌O157:H7のような細菌

  3. 3.口の中をけがしたり、歯を欠いたりするような金属片(製造機械の破損により入り込む)

これらは常に入り込んでいるものではありませんが、入っていることを想定して(失敗の可能性を放置しない)、しかるべき方法で対処します(失敗の芽を摘む)。「しかるべき方法」とは、例えば次の通りです。

  1. 1.残留するような使い方をした野菜を納入させない(仕様基準に沿った方法で農薬を使っていることを生産業者に保証させる)

  2. 2.殺す(細菌が死ぬ十分な温度にまで加熱する。肉、魚に病原菌がついていることは、ある程度覚悟しなくてはならない)

  3. 3.見つけ出して除去する(金属探知機で検査する)

そして、その対処法をとる工程(必須管理点)は、次のとおりです。

  1. 1.納入段階(要求を満たした原材料を納入する業者を選定し、その証明書類を確認する)

  2. 2.加熱調理の工程(細菌を殺すの必要な温度と時間で食品を加熱する)

  3. 3.包装の終わった最終製品を精度を確認した金属探知機で検査する

2の細菌に関しては、衛生的に取り扱った上で消費者の口にはいるまできちんと冷やす方法も、刺身などではよく行われます。たとえ病原菌に汚染されていても最小発症菌数(発症に必要な菌数は、菌種により10〜100万個と大差がある)に達するまで増殖させないのことで安全を確保する方法もあります。

このような「ハザード」混入の可能性を洗いざらい列挙し(かなりの知識が必要)、それぞれの起こりやすさと起こったときの深刻さを考えて(これにも勉強が必要)、それぞれのハザードをどの工程で、どのように管理するかを決めることが、HACCPの基礎となります。

HACCPの手法の基礎にあるこのような手法の根っこには、航空機事故などの災害を防ぐために提案された”Mode of Failure”という考え方があります。あえて訳せば「失敗の流儀」でしょうか。解説すれば、「失敗が起きる可能性を放置しておけば、いつか必ず失敗が起こる」ということです。HACCPの考え方は、「失敗(食中毒)が起こる前に失敗の芽を鵜の目鷹の目で探しだし、シラミ潰しにその芽を摘んでしまう」ということです。