組換え大腸菌によるバイオマスからの化学工業原料の生産

経済的豊かさと高利便性の生活を支えてきた従来の生産プロセスは、主に石油を原料とし、エネルギーを大量消費するプロセス(石油リファイナリー)である。しかし、このプロセスは化石資源枯渇、地球温暖化、ダイオキシン類による環境汚染など地球的規模の問題を引き起こしている。そのため、カーボンニュートラルで再生可能なバイオマスを用いた環境低負荷のエネルギー・環境調和型循環産業システムによる物質生産、すなわち微生物を利用したバイオプロセスによる生産システム(バイオリファイナリー)への早期転換が必要である(図1)。

バイオマス原料は、環境条件による年次変動、季節変動、世界情勢問題を克服できる安定供給性を持ち、さらに食糧自給率の低い日本では食料と非競合でなければならない。このような背景を考慮し、本研究では、新潟県の全国2位のキノコ生産量を支える(株)雪国まいたけの廃菌床を地域バイオマスとしての利用を試みている。廃菌床は、セルロース、ヘミセルロースを多く含み、年間を通じて10万t程度、毎日一定に排出・集積されているので、今の日本で事業化に直結できる最有力の非可食バイオマスである。

この廃菌床を、企業及び他大学のチームと共同で、①マイタケ菌の生物的前処理能力を最大限強化し、高効率な前処理プロセスを構築する。前処理産物をセルロース高分解微生物トリコデルマ・リーセイの改良・利用で、リグニン、セルロース、へミセルロースを同時分解してグルコース、キシロースの生成を行う。②得られたグルコースは、代謝工学的に改変された組換え大腸菌により100%効率で化学工業原料中間体の2-デオキシ-シロ-イノソース(DOI)に変換し、キシロースはその組換え大腸菌の生育炭素源として利用する。すなわち、セルロース、ヘミセルロース画分から得られた糖は、無駄なく利用する(図2)。

本研究の生産物質のDOIは、種々の医薬品、農薬、化粧品等の出発原料になる物質であり、特に簡単に2価フェノール(酸化防止剤、接着剤、美白剤原料)に合成変換できるので付加価値が高い(図3)。また、DOIをさらに有用な化合物である芳香族アミン前駆体のDOIA,DOSへの酵素変換についても研究を進めている。

本研究は、非可食バイオマスから今まで石油から生産されていた付加価値の高い化成品原料を生産する技術であり、石油リファイナリーからバイオリファイナリーへのパラダイムシフトによる持続型循環社会の構築、地球環境問題に貢献することができる。

なお、本研究は、NEDOプロジェクト「非可食性植物由来化学品製造プロセス技術開発」の一部である(http://www.nedo.go.jp/activities/ZZJP_100058.html)。