新潟薬科大学 応用生命科学部
遺伝子発現制御学研究室

研究テーマ

 (1) 人工アンチセンスRNAを用いた遺伝子発現制御と医療・産業応用へ向けての基盤研究

我々が開発した人工アンチセンスRNA法を活用し、細菌の遺伝子発現ネットワークの改変により新規代謝経路を構築して、医療的・産業的に有用な細菌を構築することを目指した合成生物学的研究を行っていきたいと考えています。さらに、複数のミューテーター遺伝子の発現を同時に抑制することによる誘導型突然変異誘発株を作製し、環境適応性の高いゲノム配列の創出を行います。

 (2) 細菌における小分子非コードRNAの探索・機能解析と医療応用へ向けての基盤研究

原核生物および真核生物において、タンパク質をコードしていない小分子非コードRNA(数十塩基から数百塩基)が遺伝子発現の制御因子として働くことにより、複雑な生命活動の鍵分子として重要な役割を担っていることが最近明らかになってきています。私はこれまでに、大腸菌における小分子RNAの探索と生理機能の解明に向けて遺伝学および分子生物学的手法を用いて研究を行ってきました。今後は、大腸菌のみならず、緑膿菌、黄色ブドウ球菌、肺炎球菌、ミュータンス連鎖球菌、乳酸菌等の細菌も用いて新規小分子RNAを探索・機能解析を行い、細菌の増殖制御や薬剤耐性化に関与する医療的にも重要な小分子RNAを研究していきたいと考えています。

 (3) toxin-antitoxin遺伝子システムによる細胞増殖制御機構の解明と制御

多くの細菌のゲノムには、toxin-antitoxin system (TAS) とよばれる機能未知の遺伝子ユニットが複数コードされています。TASは、自分自身の増殖を阻害する毒素(toxin) 遺伝子とそれに対する解毒剤(antitoxin) 遺伝子のセットからなります。細菌のゲノムには多数のTASが存在しており、ストレス応答やプログラム細胞死、さらに薬剤抵抗性細胞(パーシスター)の出現に関与していると考えられていますが、まだ不明な点が多くあります。私は以前の研究において、非コードアンチセンスRNAがantitoxinとして機能している新しいタイプのTASを複数同定してきました。その生理機能解析や、一細胞レベルでの遺伝子発現の研究を通して、細胞増殖の生命システム解明に迫ろうと考えています。この研究によって、感染症や薬剤耐性メカニズムの理解がより深まればと期待しています。さらに、人工アンチセンスRNAによる遺伝子発現制御法などを用いて、antitoxin遺伝子による抑制制御を人工的にコントロールすることにより、細菌自身が保持している内在性のtoxin遺伝子を発現させることによる新規抗菌法の開発を推進していきたいと考えています。